老人と海

本の概要

  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 著者:ヘミングウェイ 訳者:福田恆存(ふくだつねあり)
  • 発行:昭和41年6月15日 (昭和62年5月25日 62刷)

キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。四日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰路サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。

『老人と海』裏表紙紹介

何が面白いのか?

 この世界的名著とされる作品を,人生も老年期が近づきつつある今になって初めて読んでみる気になった。高校生の読書感想文の課題図書などに挙げられる本書のことは当然昔から知っていたし,手に取って読んだ友人から話を聞いたりもしたが,一様に「退屈」「つまらない」「何で名作なのか分からない」といった感想を漏らすため,わざわざ読もうと思えなかったのだ。

 だが,ふと「この年齢になった私なら退屈と思わないかもしれない」という考えが過り,試してみたくなった。


海のことを考えるばあい、老人はいつもラ・マルということばを思いうかべた。それは、愛情をこめて海を呼ぶときに、この地方の人々が口にするスペイン語だった。海を愛するものも、ときにはそれを悪しざまにののしることもある。が、そのときすら、海が女性であるという感じはかれらの語調から失われたためしがない。もっとも、若い漁師たちのあるもの、釣綱につける浮きのかわりにブイを使ったり、鮫の肝臓で大もうけした金でモーターボートを買いこんだりする連中は、海をエル・マルというふうに男性あつかいしている。かれらにとって、海は闘争の相手であり、仕事場であり、あるいは敵でさえあった。しかし、老人はいつも海を女性と考えていた。それは大きな恵みを、ときには与え、ときにはお預けにするなにものかだ。たとえ荒々しくふるまい、禍いをもたらすことがあったとしても、それは海みずからどうにもしようのないことじゃないか。月が海を支配しているんだ、それが人間の女たちを支配するおうに。老人はそう考えている。

『老人と海』ヘミングウェイ/福田恆存 訳

 背表紙の説明にもあるように,舞台はキューバの首都ハバナのコヒマル地区。

 長い間漁師として暮らしてきた老人(サンチャゴ)だが,84日も魚が捕れない日が続いていた。最初の40日は少年(マノーリン)と一緒だったが,不漁が続いたためマノーリンの親が少年に別の舟に乗るよう言いつけたため,その後老人は一人で漁に出ていた。マノーリンはサンチャゴを尊敬しており慕っていたが,親に逆らうことはできない。

 不漁続き85日目のその日,一人で沖へ出た彼の網に大きなマカジキがかかった。老人は経験の全てを総動員して空と海を読み,その魚を得るために全力を注ぐ。3日もの間,少量の食べ物と水だけで体を保ち,眠りもせずに魚と共に海を漂う。

 3日間も一人で海と海の底の魚を相手に様々なことを考え独白するサンチャゴ。そのうちにサンチャゴの中には彼を振り回している大魚に対する兄弟のような尊敬や愛情の心が芽生えてくる。愛し尊敬しても彼は魚を殺さなければならない。彼は漁師なのだから。


あれ一匹で、ずいぶん大勢の人間が腹を肥やせるものなあ、とかれは思う。けれど、その人間たちにあいつを食う値打ちがあるだろうか? あるものか。もちろん、そんな値打ちはありゃしない。あの堂々としたふるまい、あの威厳、あいつを食う値打ちのある人間なんて、ひとりだっているものか。

『老人と海』ヘミングウェイ/福田恆存 訳

 彼は全身に傷を負いつつも遂に勝利を手にするが,帰路で鮫に襲われ全てを失った。
 あの美しく威厳があった,そして彼が兄弟のように愛した大きなマカジキが次々と現れる鮫たちに食いちぎられていく中で,サンチャゴは心から後悔をする。


「これが夢だったらよかった。釣れないほうがよかったんだよ。こいつにはすまないことをしたなあ。釣りあげたのがまちがいのもとだ」

『老人と海』ヘミングウェイ/福田恆存 訳

「こんなに遠出をする手はなかったんだよ」老人は魚に話しかけた、「お前にとっても、おれにとっても、意味なかった。本当にすまないなあ」

『老人と海』ヘミングウェイ/福田恆存 訳

 海の上での3日間の彼の言葉の端々に,彼の海についての知識の深さが窺える。
 だがそれでもサンチャゴは鮫に敗北するしかなかったのだ。そこには知恵と気力で大魚に勝利した老人にさえも,どうにもできない大自然への畏敬が感じられる。

 サンチャゴを慕い心配していた少年(マノーリン)に,またとない大きなマカジキの嘴を譲れたことがサンチャゴの得た勲章ではないだろうか。


自然の一部である人間

 文学を専門にする方々の評価などは知らないし,特に興味も持っていない。
 この作品の名作たる理由などもよくわからない。

 だが,退屈でつまらないとは思わなかった。3日間一人で大自然の厳しさと正面から向き合っていた老人の語りは,地球の営みや生命の力強さと儚さについて考える哲学の世界だった。


「鳥ってやつはおれたちより辛い生活をおくっている、泥棒鳥はべつだがな、それに、でかくて強いやつはべつだ。けれど、なんだって、海燕みたいな、ひよわで、きゃしゃな鳥を造ったんだろう、この残酷な海にさ? なるほど海はやさしくて、とてもきれいだ。だが、残酷にだってなれる、そうだ、急にそうなるんだ。それなのに、悲しい小さな声をたてながら、水をかすめて餌をあさりまわるあの小鳥たちは、あんまりひよわに造られすぎているというもんだ」

『老人と海』ヘミングウェイ/福田恆存 訳

 この物語の主題は老いの悲哀であるとか,全ては老人の夢落ちであるとか,様々な意見があるようだが,私が感じたのは,貿易風や海流を創り出す地球の大自然の中で等しい存在として生きて死ぬ人間と魚や鳥の営みの哀しさと力強さだった。
 夢落ちって線はないだろうと思う。

 一つだけ疑問に思うのは,こんなにも海に詳しいサンチャゴなら鮫が襲ってくるであろうことなど大魚を仕留める以前に気がつく筈だろうに?ということだ。大魚と出会った時点で彼の思考は非日常の世界に填まり込んで,そのようなことを思い付く余地が消えてしまったのだろうか。

 年を取って読み返すほどに感じることが増えていく作品なのかもしれない。
 それゆえに,高校生の時分に「つまらない」という感想を持っておくことにも価値がある作品なのではないかと思った。


ローズ・ワイルダーの物語

小さな家シリーズの前日譚と後日譚

 『大草原の小さな家』シリーズの後日譚,ローラの娘のローズの物語。
 このシリーズは,ローズ・ワイルダー・レインの養子で,ローズから直接子供時代の話を詳しく聞いたロジャー・リー・マクブライドによって書かれている。

 ローラ・インガルス・ワイルダー自身が出版した本は8冊だけだった。
 ローラシリーズの『はじめの四年間』及び『わが家への道』も,ローラの死後,このシリーズの著者であるマクブライド氏によって出版された。
 『はじめの四年間』は草稿のまま,『わが家への道』はローラの日記にローズの捕捉を追加した形での出版。よく知られるように,ローラのシリーズは,既に作家として活動していたローズの渾身の指導があってできあがった物語なのだ。

 小さな家シリーズ前日譚,キャロラインや更にその祖先にあたるシャーロットやマーサのシリーズは,ローズシリーズとは作者が異なっており,読んでいても世界を見る視点が異なっていることを感じる。
 これらの前日譚・後日譚はどちらも本の出版に本人が関わっていないため,物語上の事実とは異なる脚色は,ローラシリーズ以上に増えているのかもしれない。

 しかし,それでもこれらのシリーズはできる限り事実に忠実に物語を構成しようと努力された本であり,出版の経緯を踏まえた上で読むことに違和感は感じなかった。子どもの頃から好きだった物語を見届けさせてもらえてよかったと思う。

 ローズシリーズは,残念ながら最後の2冊が邦訳されていない。日本では未出版なのだ。
 日本での最終巻,『ロッキーリッジの新しい夜明け』の翻訳本が出版されて約20年が経過したことを思えば,今後出版される希望もなさそうで残念だ。
 できればマーサやシャーロットの物語も含め,全てが邦訳され,入手しやすい電子書籍になってくれればと願ってやまない。 


ロッキーリッジの小さな家 (新大草原の小さな家 1)

  • 作者: ロジャー・リー・マクブライド(著) デービッド・ギリース(絵) 谷口由美子(訳)
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 1994/09/26
  • メディア: 単行本

 前半は,1894年の夏,サウス・ダコタ州デ・スメットからミズーリ州マンスフィールドまでの移住の旅。『わが家への道―ローラの旅日記』の内容を,ローズを主人公として語り直している感じになっている。
 ローラの旅日記と同じことも出てくるし,同じ場面がもっと詳しく書かれていたり,ローズ視点の異なるエピソードがあったりする。

 後半は農場を手に入れ最初の冬を迎える準備ができるまで。
 農場はローラによってロッキーリッジ(岩尾根農場)と名付けられ,近所の人たちとも知り合いになる。

 ローラ・インガルス・ワイルダー作の小さな家シリーズと比べると文調が異なり,自然描写が今ひとつ詩的でない気がするし,服や食べ物の描写も乏しく少し物足りない気がする。ローラのシリーズを通して20回は読んでいる私には別のシリーズだという感じは否めないが,別のシリーズだと思って読めば問題ない。
 開拓少女として育ったローラが母となり,その後をどうやって過ごしたかがわかって興味深い。ローズはまだ幼いが,とても意志がはっきりした少女である事がわかる。

ローズ 7歳。
インガルスの親戚と最後の別れをし,クーリーさん一家と共にワイルダー家は新天地へ向かう。

デ・スメットからマンスフィールドまで幌馬車の旅の間にローラが綴った日記。

オウザークの小さな農場 (新大草原の小さな家 2)

  • 作者: ロジャー・リー・マクブライド著 デービッド・ギリース絵 こだまともこ・渡辺南都子訳
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 1995/04/14
  • メディア: 単行本

 物語の最後でローズは8歳。
 オウザーク丘陵で,ワイルダー家の新しい生活が始まった。引っ越した直後から,引っ越して来て1年後の秋の収穫月が高々と照る季節まで。1894年~1895年,最初の1年の物語だ。

 新しい家のお祝いにアルマンゾがローラのために買った新しい料理用ストーブの話が印象的だった。立派な料理用ストーブを贅沢品と断じ,内緒でそれを買ったアルマンゾを非難し,頑固に拒否するローラ。
 ローラが苦労するところを見たくない,ローラに喜んで欲しい,ローラが楽に働けるようになって欲しいというアルマンゾの心遣いなど完全無視だ。そして,そんなローラの怒りをのらりくらりとかわし「まぁ見ててごらん」とローズに話すアルマンゾ。
 『大草原の小さな家』シリーズでもローラの頑固な性格が前面に出るエピソードは幾つもあった。『大草原の小さな町』で,ワイルダー先生に反抗して学校から帰された逸話などが即座に思い浮かぶ。あのローラがそのまま大人になって,大人になった分だけ面倒さに磨きがかかった感じだ。穏やかなアルマンゾは,そんなローラをよく理解しサポートし良い夫婦なのだと感じさせられた。

 ただ,2冊目を読んでもローズがどんな人なのか今ひとつわからない。ローラシリーズはもちろん,キャロラインシリーズでもキャロラインがどんな人物なのか生き生きとわかったのだが。
 学校に行きたくないローズの様子から,ローズがマンスフィールドの人々に馴染んでいないことはわかる。ローズが学校の文庫から最初に選んだ本『革脚絆物語』※を読んでみたいと思った。

※『革脚絆物語』(かわきゃはんものがたり, Leatherstocking tales)
 著者:ジェイムズ・フェニモア・クーパー(James Fenimore Cooper, 1789~1851)

ローズ 8歳。
ローズは町の学校に通い始める。

大きな赤いリンゴの地 (新大草原の小さな家 3)

  • 作者: ロジャー・リー・マクブライド(著) デービッド・ギリース(イラスト) 谷口由美子(訳)
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 1995/11/20
  • メディア: 単行本

 1895年,ローズ9歳の秋に始まり,1896年,ユタ州が45番目の州として合衆国の仲間入りをした年の夏の終わりまでの物語。

 1896年,アルマンゾはロッキーリッジに新しい農家の建築を開始した。まず台所と玄関の間,そして屋根裏の寝室で,ローズも自分だけの部屋を手に入れる。

 「恋仲」という大人の世界に興味を抱く年頃になったローズ。自分のロバを手に入れ,また嘘をつく恐ろしさも知る。クリスマスの時期が近づくと,家族のクリスマスプレゼントの準備で忙しく過ごすが,そんな中で,プレゼントをもらったことがない近所の子供に心を砕いたりもする。
 大人に向かって成長していくローズにとって,人生も仕事も新しいことだらけなのだった。

 夏の日差しから樹皮を守るために,リンゴの幹の地面から最初の枝までにしっくいを塗るのだそうだ。開拓者の娘だったローラの物語には果樹についての話は全く書かれていなかったので初めて知った。

 また,暖かい日に激しい仕事をした日には「スウィッチェル」を飲んでいたそうだ。これはリンゴ酢と蜂蜜と生姜で作る飲み物で,身体に良さそう。ネットで調べると簡単なレシピが幾つも見つかった。

 蜂蜜を利用するために,発見した蜂の巣を,蜂の群れを導きながら引っ越しさせる話が面白かった。
 一人一人が頭を使って創意工夫して様々な問題を日々解決しながら暮らしていく生活だ。個人の資質が生活に直結しそうだ。

ローズ  9歳。
ロッキーリッジは順調に大きく豊かになっていく。

丘のむこうの小さな町へ (新大草原の小さな家 4)

  • 作者: ロジャー・リー・マクブライド(著) デービッド・ギリース(イラスト) こだまともこ・渡辺南都子(訳)
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 1996/05/24
  • メディア: 単行本

 ロッキーリッジへ越してきて2年後,ローズは11歳。
 物語は,ワイルダー家が懇意にしている隣人,エイブとエフィーの結婚式の夜から始まる。エイブとエフィーには双子が誕生し,ロッキーリッジは豊かになり穏やかな日々が過ぎて行く。
 しかし,ワイルダー家には転換期が訪れようとしていた。

 この頃になると,ローズは線路の続く地平線の向こうへ思いを馳せるようになっている。将来町を出て世界を駆け回るローズの片鱗が現れているのかもしれない。

 近所で助け合う豚の解体,流行のタモシャンター帽,それから学校のクロウ先生。願いのかなう本に,学友のブランチの誕生日パーティ。
 だがその後,農場に天災が続く。竜巻に襲われ,雨の春のあとにやってきた日照り続きの日々,夏の山火事。ロッキーリッジに苦難の時が訪れた。
 また,ワイルダー家と一緒にデ・スメットから移住してきたクーリー家にも列車の転覆事故という悲劇が起こる。

 1898年,ワイルダー一家は農場を人に貸し,丘のむこうの町へ引っ越すことになったのだった。アルマンゾの両親が,ルイジアナ州へ移住する途中でマンスフィールドに立ち寄ったのもこの年。
 少女時代を終え,少しずつ大人になってゆくローズの物語だ。

ローズ 11歳~12歳。
ロッキーリッジには平穏な日々が続いていたが,それも束の間,次々と天災が訪れる。

オウザークの小さな町 (新大草原の小さな家 5)

  • 作者: ロジャー・リー・マクブライド(著) デービッド・ギリース(イラスト) 谷口由美子(訳)
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 1997/05/26
  • メディア: 単行本

 ローズは12歳。
 ロッキーリッジからオウザークの町へ引っ越し,新しい隣人たちとの関係の中で町の生活に慣れてゆく。
 町で暮らし始めて,ローズの友人関係は少しずつ変わっていった。学友のロイスとネイト,幼なじみのポール。また汽車を見ながらの暮らしをローズは少しずつ楽しむようになっていく。
 ワイルダー家には下宿人が住むようになり,町では流れ者に出会ったり,ローズの世界は広がっていく。またこの年ローズは重い病に罹り,生死を彷徨うことにもなった。
 こういった経験の何もかもがローズを大人にしてゆく。

ローズ 12歳。
オウザークの町で暮らし始め生活や交友関係が変わってゆく。

ロッキーリッジの新しい夜明け (新大草原の小さな家 6)

  • 作者: ロジャー・リー・マクブライド(著) デービッド・ギリース(イラスト) こだまともこ・渡辺南都子(訳)
  • 出版社: 講談社
  • 発売日: 1998/05/25
  • メディア: 単行本

 十九世紀最後の日,ローズは13歳だ。

 幼なじみのポールは電信技師となって遠くの町へ旅立っていった。
 親友のブランチも,マウンテングローブ・アカデミーへ進学してマンスフィールドを去った。

 ローズは忙しく過ごしながらも年頃の娘としての好奇心を抑えられず,ロイスの妹のエルサと一緒にこそこそと遊ぶ計画を立てて両親を心配させたり,お金のかかる進学のことで悩んだりするのだった。

 ローズが進学のことで悩んでいたちょうどその時,デ・スメットから便りが届く。インガルスのおじいちゃんが重篤だというのだ。進学で悩むローズを残し,ローラは汽車に乗ってデ・スメットへ出発してしまう。懐かしくも悲しいローラの帰省の旅だった。
 「飲みかけのリンゴ酒の小びんちゃん」は「一ガロン入りのリンゴ酒の大びん。だれもまだ口をつけていないくらいの重いびん」になって,とうさんの枕元に座る。
 チャールズ・インガルスは,1902年6月8日にこの世を去った。
 デ・スメットで,ローラは懐かしい人たちの消息を知る。ボーストさんにメリー・パオワー,キャップ・ガーランドのその後が語られる。

 物語の最後,ローズは16歳になっている。
 将来についての相談相手であるブランチは甚だしく精神的成長を遂げていて,教育と環境はここまで人を作り替えるのかと驚いた。

 進学の望みを失い失望するローズだったが,彼女の前に,相変わらず我が儘と類い希なる魅力を併せ持った伯母,イライザ・ジェーンが登場した。ローラやアルマンゾとは反りが合わないイライザ・ジェーンだが,ローズにとっては良き理解者である素敵な伯母なのだった。


 ローズの物語は,この後『On the Banks of the Bayou』と『Bachelor Girl』の2冊が出版されているが,日本語訳はこの『ロッキーリッジの新しい夜明け』でお終いだ。
 残念だが,本書が出版されて20年以上が経過していることを思えば続きの邦訳が出版されることは期待できないだろう。
 ローズ自身が書いた自伝的小説『わかれ道』は谷口 由美子訳で出版されている。

ローズ 13歳~16歳。
親しい友人達がマンスフィールドを旅立ち各々の道を歩み始める中,進学について悩む。

結婚の失敗やポールとのその後などを基に書かれたローズの自伝的小説。

On the Banks of the Bayou (Little House Sequel)

  • 作者: Roger Lea MacBride(著) Dan Andreasen (イラスト)
  • 発売日: 1998/9/19
  • 出版社: HarperCollins; Illustrated版 (1998/9/19)
  • メディア: ハードカバー/ペーパーバック

 『バイユーの土手で』と訳せば良いのだろうか?
 バイユーとはミシシッピ川の三角州地帯などでゆっくりと流れる小川のことで,ルイジアナ州からテキサス州あたりに広がっているらしい。

 平易な英語で書かれている。高校生程度の英語力があれば,わからない単語を読み飛ばしても全体の意味は十分わかると思う。ローズのロッキーリッジからの旅立ちの物語なので,ローズのその後に興味がある方にはお勧めの本だ。


あらすじ

 1903年。16歳になったローズは,ローラに見送られ,マンスフィールドの駅から旅立つ。行く先は伯母のイライザ・ジェーンが住むルイジアナ州クラウリーだ。
 この本ではクラウリーの高校に通うローズの1年が描かれる。ローズは学んだことがなかったラテン語も克服し懸命に勉学に励みつつ,女性の権利のために活動をするイライザ・ジェーンの影響を大きく受けながら伯母の家での生活を楽しむ。
 そして,17歳で高校を卒業したローズは,大好きな伯母に別れを告げてマンスフィールドへ帰る列車に乗るのだった。

 ローズを呼び寄せたイライザ・ジェイン(E.J.)が住むルイジアナ州クラウリーはマンスフィールドに比べると大都会で,電話や電気があり,レストランやアイスクリームのパーラーもあり刺激的だ。ローズは生まれて初めて食べるアイスクリームに夢中になる。
 ルイ14世の名前に由来するルイジアナ州にはフランス語を話す人が多く住み,カナダからやってきたフランス系の移民や黒人も多く暮らす。まるで音楽のように聞こえるフランス語の響はローズを刺激する。
 また,母親のローラと違い,婦人参政権を目指す先進的な女性であるイライザ・ジェーンの活動を手伝いながら,ローズは今まで知らなかった世界の人々と知り合い,考えを深めてゆく。

 キャロラインが家族から離れてミルウォーキーの大学に行った時のことを思い出したが,キャロラインが家庭的な少女だったのに対し,ローズはE.J.に似て独立心と冒険心を多く持つ少女だ。E.Jと暮らしたこの1年がローズの生涯に与えた影響は計り知れない。

 かつてローラの「ワイルダー先生」だったE.J.のことを,アルマンゾもローラもいつまでも苦手としているようだったが,ローズの目を通して見るとまるで別人になったのが印象的だ。E.J.は類い希なる才能と実行力を持った魅力的な女性で,ローズにとって素晴らしい伯母だったようだ。
 イライザ・ジェーンはローズが未来を切り開く切っ掛けを与えた大きな存在なのだった。

ローズ 16歳~17歳。
伯母イライザ・ジェーンの家からルイジアナ州クラウリーの高校に通う。

Bachelor Girl (Little House Sequel) 

  • 作者: Roger Lea MacBride(著) Dan Andreasen (イラスト)
  • 発売日: 1999/9/1
  • 出版社: HarperCollins; Illustrated版 (1998/9/19)
  • メディア: ハードカバー/ペーパーバック

 タイトルは,『バチェラー・ガール』『独身婦人』『職業婦人』という感じだろうか。
 ローズの養子でローズから直接話を聞いたロジャー・リー・マクブライド氏によるローズシリーズの最終巻だ。


あらすじ

 1904年。
 ローズは伯母イライザ・ジェーンの家から通ったルイジアナ州クラウリーの高校を卒業し,マンスフィールドへ帰った。
 しかし,すぐに田舎暮らしに退屈し飽き飽きしてしまう。マンスフィールドの同世代の少女達はくだらなく見えるし,彼女が電信技師の学校に問い合わせる郵便を送っただけで近所の人を通じて母親が知ってしまうようなところも嫌いだった。

 ローズは両親に50ドルの借金をしてカンザスシティの学校へ進学する。カンザスシティはミズーリ州最大の都市だ。1900年の人口が163,752人,1910年で248,381人だから,当時,急成長を遂げていた都市だろう。ちなみに2010年には459,787人になっている。

 学校を卒業したら仕事を紹介してもらえるという話だったのにそんな話はなく,ローズは直談判でどうにかカンザスシティで電信技師の仕事を手に入れる。しかし,ローズは下宿先の家族から冷たくあしらわれ,給金も安く苦しい生活だった。そんな中,幼なじみで恋人のポールが1日だけ訪ねてくる。
 ドレスを新調し浮かれていたローズだが,出先で帰りの船がやって来ないというトラブルに見舞われ朝帰りとなってしまう。おかげで下宿先の夫人からとうとう引導を渡されたも同然となり,サンフランシスコの仕事に応募した。

 破れかぶれでサンフランシスコへ向かい懸命に仕事に取り組み,両親への借金を返したが,ローズは仕事一辺倒の日々を暗い気持ちで暮らしていた。
 海の景色を眺めて散歩することが,そんなローズの大いなる慰めの一つだった。海の向こうの知らない国々のことを考えるとローズはワクワクするのだった。初めて食べる海の魚も美味しい!

 そんなある日,ローズはひょんな事から仕事先でルイーズという少女と知り合う。ローズは,ルイーズやルイーズの母親と一緒に出歩くようになり,やがて彼女らの家に同居するようになる。ルイーズたちの生活は,ダンスにお酒,きらびやかな化粧,深夜のドライブなど,今までのローズの暮らしとはかけ離れたものだった。

 彼女らの派手な交友関係につきあって出かけた先で,ローズは未来の結婚相手となるジレット・レイン(ジル)と知り合う。
 ローズは,ポールを愛していたが,昔ながらの価値観に頑固に固執するポールに不満も抱いており,愛していないと思いつつもジルに惹かれていった。

 カリフォルニア州での不動産業に成功したジルは,土地を売る仕事をしないかとローズに提案する。土地を売るなど男の仕事だと思っていたローズは,自分にもそれができるかもしれないと思うとワクワクした。
 同時に,両親やイライザ・ジェーンから聞いた彼らが若い頃の物語,新しい土地の開墾の物語を思い出し,血が騒いだ。今度は自分の番なのだ! 新しい仕事に挑戦するため,ローズはジルと共にサンフランシスコを発つのだった。ローズは19歳になっていた。

ローズ 17歳~19歳。
高校を卒業し,マンスフィールドの実家を去り,都会で電信技師として働く。

小さな家シリーズの Index