堕落論・続堕落論

本の概要

  • 堕落論
  • 著者 坂口安吾
  • 青空文庫(kindle版 2012/9/13)
  • 本の長さ 13ページ

昭和初期に活躍した「無頼派」の代表的作家である坂口安吾の評論。初出は「新潮」[1946(昭和21)年]。「日本文化史観」や「教祖の文学」と並ぶ、安吾の代表的評論。「半年のうちに世相は変った」という有名な書き出しを枕に、戦後直後の日本人が自らの本質をかえりみるためには、「堕落」こそが必要だ、と説いたことで世間を賑わせた。現在も賛否両論を集める、過激な評論作品。

本の説明より

 終戦翌年に書かれた本。

 戦争中に堕落はなかった,と著者は言う。
 戦争は驚くほどの理想郷で,無心でいられ虚しい美しさが咲きあふれ,充満していた。だがそれは人間が本来あるべき美しさではない。戦争に負け,今や堕落が可能になった。
 堕ちる道を堕ちきることによって人は自分自身を発見し,救うことができる。堕落が母胎となり,人性が,人間が誕生するのだと。

 生きて落ち続けるという手順は,真に人間を救い得る便利な近道なのだ。


日本は負け、そして武士道は亡びたが、堕落という真実の母胎によって始めて人間が誕生したのだ。生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。

堕落論

堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。

堕落論


  • 続堕落論
  • 著者 坂口安吾
  • 青空文庫(Kindle版 2012/9/13)
  • 本の長さ 14ページ

昭和初期に活躍した「無頼派」の代表的作家である坂口安吾の評論作品。初出は「文学季刊」[1946(昭和21)年]。共同体的な規範から逃れ「堕落」する姿勢こそ、戦後日本人に必要な姿勢だと説いた代表作「堕落論」の続編として記された。「堕落論」で多用された警句的表現をより分かりやすく整え、「堕落」のもたらす意義をより直接的に説いた。

本の説明より

 著者は,まず日本の耐乏精神を強烈に批判する。


農村の美徳は耐乏、忍苦の精神だという。 乏しきに耐える精神などがなんで美徳であるものか。必要は発明の母と言う。乏しきに耐えず、不便に耐え得ず、必要を求めるところに発明が起り、文化が起り、進歩というものが行われてくるのである。

続堕落論

ボタン一つ押し、ハンドルを廻すだけですむことを、一日中エイエイ苦労して、汗の結晶だの勤労のよろこびなどと、馬鹿げた話である。しかも日本全体が、日本の根柢そのものが、かくの如く馬鹿げきっているのだ。

続堕落論

  乏しさに耐える精神など美徳ではない,必要は発明の母,必要を求めるところに進歩が起こるのだと著者は説く。人性の正しい姿とは,欲するを素直に欲し厭な物を厭だと言うただそれだけのことであるのだと。
 まずは己れをタブーから解き放ち,自らの真実の声をもとめ地獄へ 堕ちよ!

 堕落は悪いにきまっているが元手をかけずに本物を掴むことなどできないのだ。
 堕落すべき時に真っ逆さまに堕ちねばならない。堕落には孤独という偉大な実相がある。

 人は無限に堕ちきれるほど強くはなく,必ず落下をくいとめずにいられなくなり,進んでいく。堕落こそ制度の母胎なのである。

善人は気楽なもので、父母兄弟、人間共の虚しい義理や約束の上に安眠し、社会制度というものに全身を投げかけて平然として死んで行く。だが堕落者は常にそこからハミだして、ただ一人 曠野 を歩いて行くのである。悪徳はつまらぬものであるけれども、孤独という通路は神に通じる道であり、善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや、とはこの道だ。

続堕落論

花岡ちゃんの夏休み

本の概要

  • 花岡ちゃんの夏休み (ハヤカワ文庫JA) 
  • 著者 清原なつの
  • 出版 ハヤカワ文庫
  • 発売 2006/3/15

才女の誉れ高いメガネ女子大生、花岡数子が恋を知る夏を描いた表題作、恋のライバル出現の「早春物語」、花岡ちゃんが脇役の「アップルグリーンのカラーインクで」、花岡ちゃんによく似た宮嶋桃子登場の「青葉若葉のにおう中」、みやもり坂事件の「なだれのイエス」で、花岡ちゃんシリーズはコンプリート。他「胸さわぎの草むら」「グッド・バイバイ」と初期作品7篇を収録した傑作名作集。描き下ろしあとがきマンガ「みやもり坂の頃の事」

本の裏表紙紹介文

個別作品紹介

 表題作ほか,デビュー作の『グッド・バイバイ』を含む1976年~1981年『りぼん』掲載作品集。
 当時清原なつの氏は金沢大学薬学部在学中で,舞台は主に北陸地方だ。
 70年代後半の,まだ女性はさっさと結婚するのが当然で家庭には黒電話があった時代を背景に,我が道をゆく少々変わった人たちが登場する。
 登場人物たちはいずれも20歳前後。
 少女漫画っぽくないけれどやっぱり少女漫画な味わい深い世界。


花岡ちゃんの夏休み

 『りぼん』1977年8月号
 花岡ちゃんこと花岡数子さんは,知性を探究する大学生だ。嫁に行くことには興味が無いが母親が悲しむので結婚はしてやろうと思っている。面倒なので最初の見合い相手と…。
 しかし,本屋で同じ本に手を伸ばした簑島さんと知り合って…。
 本屋で同じ本に手を伸ばすというのは古典的な出会いで,メリル・ストリープ主演の『恋におちて』(1984)を思い出すが,こちらの方が先(1977)だ。

 なお,花岡ちゃんと簑島さんが手を伸ばした本,『ロバートブラウン物語』は実在する。
 昭和51年=1976年,奇しくも『花岡ちゃんの夏休み』の前年に発行されている。

 『ロバートブラウン物語』キリン・シーグラム株式会社著/昭和51年2月14日発行/限定版/A5判/150ページ/企画制作:博報堂

 偶然だったようで,枠外に下記のように記されていた。

『ロバートブラウン物語』を某ビール会社がS51年に限定版で出しておりました…。

p.179

早春物語

 『りぼん』1978年3月号
 花岡ちゃんと簑島さんが出会った夏から季節は移り早春。
 北陸の早春はまだ雪景色だ。
 美人のクラスメイト笹川華子さんが簑島さんの前に現れ,動揺する花岡ちゃん。
 自分の気持ちに苦悩する花岡ちゃん。

私の偉大なテーマはどこへいった
哲学はどこへいった
私はこのように低俗なジェラシーなんぞに
かかかずらわっている時間などないのじゃ

p.58

 随分と微笑ましい悩みだが,花岡ちゃんと似たようなタイプの少女だった私は,このようなジレンマには大変共感できる。


アップルグリーンのカラーインクで

 『りぼん』1977年お正月増刊号
 一浪して芸大に入った花岡ちゃんのお友達の美登利ちゃんと,美登利の幼なじみで花岡ちゃんと同じ大学に通う荻原くんの物語。
 花岡ちゃんが煙草を吸ってるのを見かけ,時代を感じた。
 そんな感じで,よく見るとあちこちに昭和が描かれている。


青葉若葉のにおう中

 『りぼん』1977年5月号
 花岡ちゃんにそっくりな宮嶋桃子さんと同級生の金之助くん,遠くから同じ大学へやってきた金之助の後輩聖子ちゃん。聖子ちゃんを愛している宮田くん。
 積み木の城はいつか壊さなければならないという物語。


なだれのイエス

 『りぼん』1981年3月号
 大学内のみやもり坂で雪崩に遭った簑島さんの話。騙されて花岡ちゃん…。
 この物語は苦手。黙っているなんてあんまりではないか?
 それは黙っていていいことではない…。


胸さわぎの草むら

 『りぼん』1979年7月号
 学生結婚でもうすぐ赤ちゃんが生まれる牧野三四郎&栄美夫妻とセイタカアワダチソウの精の物語。
 牧野富太郎夫妻がモデルという話を某所で見かけたが,モデルなのは名前と植物好きなところ?

 私にとっては清原なつの氏の最高峰。
 この作品が忘れられず,少女時代の記憶を頼りに大人になって再び清原なつの氏の漫画を探しだして読もうと思った。

 また,帰化植物について興味を抱いたきっかけが,この作品とユーミンの《ハルジョオン・ヒメジョオン》(1978)だった。

セイタカアワダチソウもそうなんだよ
生命をつなげていきたいんだ

p.217

もっと…
植物を愛してほしいんだ…
おねがいだから
ぼくたち…
こうでもしないと
生きてゆけない 

p.220

グッド・バイバイ

 『りぼん』1976年10月増刊号
 清原なつの氏デビュー作品。
 幼なじみのさとこさんと朗くん,そして病院の息子の江戸川くんの物語。さとこさんは優秀で朗くんは…。何もかも夢だったのか?
 朗くんのお母様が着物+割烹着なところに,思いっきり時代を感じる。読み終わってもいつまでも江戸川くんの笑顔が脳裏から離れない,どこか切ないハッピーエンドの物語。


みやもり坂の頃の事

 巻末おまけ描き下ろし。
 清原なつの氏が通った大学にあった「みやもり坂」の思い出話。
 『なだれのイエス』は私には好きになれない作品だが,著者にとってはとても思い入れのある作品であるようだ。
 科学者たる著者の素顔に,そして作品の背景にちょっと近づけて,この文庫を買うことに新しい価値が加わる描き下ろしだと思う。