てるみな ―東京猫耳巡礼記

本の概要

  • 全4巻(『楽園』にて連載中)
  • 著 者:kashmir(かしみーる)ウェブサイト ネコにテルミン
  • 出 版:白泉社
  • 発売日:2013/3/29(1巻)~2021/5/31(4巻)

幽玄夢幻桃源へと猫耳少女がご案内。…まあ戻ってこれるかは保証の限りではありませんが。カバーほか描きおろし多数。コラムも充実♪「読めば気分は小旅行」なシリーズです。

白泉社の紹介

 ある日突然猫耳が生えた小学生の少女が,乗り鉄をしながら東京周辺をめぐる物語。

 猫耳少女なら萌え萌え物語だなんて思うなかれ!
 主人公のミナちゃんは,妹のテルちゃんとお祖母さん,そして両親と暮らしている鉄道大好きな普通の良い子な小学生。彼女は乗った電車や駅や線路などを詳細にノートに記録し持ち歩く筋金入り乗り鉄で,各話の最後には彼女が旅した路線のコラムが書かれている。

 …と書けば普通の乗り鉄物語のようだが,違うのだ。

 彼女が旅する世界は常に,筆舌に尽くしがたいほどの幻想的な狂気の世界に繋がっている。ミナちゃんが生きる世界は私たちのこの東京ではなく,どこか魑魅魍魎が満ち触れる異世界の東京なのだ。そこを可愛らしい彼女が淡々と旅し,明るく楽しく観光する。非常にシュールだ。
 ちなみにミナちゃん,猫耳はちょっとだけ悩みらしい。

 絵の書き込みも半端なく,1コマ1コマの背景の看板の文字までくまなく楽しまなければ勿体ない。そこに世界観が溢れているので! おかげで1冊読むのにけっこうな時間を費やすことになる。

 時に不気味だったりあっさりと人が死んでいったりするため繊細な人なら気分が悪くなるかもしれないし,読者を選ぶ作品ではないかと思うが,私は毎回紙の本とKindle版の両方を揃えるほどこの作品を応援している。


『ぱらのま』と『てるみな』

 同じ作者の漫画で『ぱらのま』という作品がある。

 こちらは『てるみな』と違って我々が住むリアルな日本の乗り鉄&街歩きの旅物語だ。
 主人公は成人女性。基本的に彼女が一人で電車の旅を楽しむ物語で,『てるみな』と同じく1話完結。ただし,『てるみな』と違って人が死んだり不思議な世界に迷い込んだりはしない。

 主人公が楽しそうに鉄道の旅を楽しみながら温泉に入ったり美味しいものを食べたり,散策して歩いたりするのを読んでいると,旅に出たくなること必至。
 微妙に『てるみな』の世界と重なっていて,『ぱらのま』の主人公のお姉さんのような人がちらっと『てるみな』に現れたり,ミナちゃんなのか?と思う姿を『ぱらのま』で見かけたりする。両方の作品を読んでいると2倍楽しめると思う。

 また何より注目なのは,『ぱらのま』の主人公の兄と思しき人物を『てるみな』の1巻・2巻で度々見かけることだ。
 そう,主人公の女性には眼鏡をかけた兄がいて,兄は筋金入りの鉄ちゃんなのだが,彼とそっくりな人物が,まず『てるみな』の1巻の扉のページに登場する。その後も度々登場する。眼鏡の男性は,著者kashmirさんではないだろうか。

「残念なお姉さん」と共に巡るオトナ力無駄に発揮な鉄道小旅行の数々。「乗り鉄」「撮り鉄」等鉄道好きも様々ですが彼女は素直に「旅鉄」です。

白泉社の紹介

 ミナちゃんが住む世界は,今より少し未来のことらしい。秋葉原にメイドさんがいたのはおじいちゃんの世代だけが知る昔のことで,今やメイドさんがいる時代の街は地下深く。
 線路マニアの人はヒメムカシヨモギとオオアレチノギクの区別がついて一人前らしいという話が載っていたがたぶんミナちゃんの世界のことだろう。

 行商列車に乗る千葉のおばあちゃんたち。衛星になった町田市。ゆりかもめならぬゆりくらげ列車。ちょっと不思議でちょっと怖い鉄道と街の物語,線路を引くことを考える話,駅ナカの発展や盲腸線などなどの鉄ちゃんネタ。


 今は無き旧山頂をめざす箱根登山鉄道に,鯉が降ってくる多摩多摩線。多摩動物園の行き帰り異なる交通機関を使った場合のこと。お使いにいった銚子の街の醤油工場のこと。そして,新駅だらけの山手線スタンプラリー。年末のアメ横に上野駅の模型。

 相変わらず物語だけでも十分にシュールだが,絵の背景として描かれたポスターや看板の文字を読んでいくと一々異常な世界に浸れる。


 3年ぶりの新刊。変わらぬ不思議な世界と,心なしか大人っぽくなったミナちゃん。

 パイプ萌えに花火と鰻の怖い話に渋谷の底を這い回る怪物と巫女さん。渋谷と亀戸線の地盤沈下。腸のトンネル。廃線路に生える植物ハイセンジュ。電車を使う新鳩レースに異次元のきさらぎ駅,ウイルス蔓延と寒天の話,そして会社に行きたくないお姉さんと東武東上線の物語。