アルテ

『月刊コミックゼノン』にて2013年から連載中。
全10巻が発売されている。

16世紀のフィレンツェが舞台で美しい絵柄。
以前から気になっていたので、
10巻まで揃えて一気に読んでみた。

16世紀初頭・フィレンツェ。芸術など文化活動が花開いたルネサンス発祥の地。 そんな活気あふれる華やかなる時代に、貴族家生まれのアルテが画家工房への弟子入りを志願する。 女性がひとりで生きて行くことに理解のなかった時代、様々な困難がアルテを待ち受ける。

Amazon内容紹介

☆☆☆

貧乏貴族の娘アルテ16歳が家を飛び出し画家を目指す。
元気で素直で前向きで,とても負けず嫌いな彼女が,
女は男の庇護の元で生きるのが当然の時代に
自分で自分の人生を切り開いていく。

作者の大久保圭(おおくぼけい)さんが
ルネサンス期イタリアを描きたくて始まった物語らしく
街や人々の服装、生活習慣など
今まで全く知らなかった16世紀のイタリアが
丁寧に描きこまれていて興味深い。

Kindle版

Amazonの評価は1巻で二分されており、
1巻ではつまらない恋愛漫画だという意見もある。
が、そういう読者が離れた2巻以降は高評価だ。

確かに1巻終盤で主人公が恋に翻弄される場面がある。
しかし2巻以降ではしっかり立ち直るし、
主人公の16歳という年齢を考えると恋の病は通過儀礼。

主人公が社会の逆風に負けず道を切り開くという、
連ドラみたいな王道ストーリーとはいえ、
王道ストーリーならではの安心感で、
主人公の成長と美しい絵を楽しみながら、
主人公を応援しつつ気軽に読み進められる。

11巻の発売は2019年7月ということで
続きを読むのが楽しみだ。

コミックス版

長閑の庭

久々に、何度も読み返したい恋愛コミックに出会った。

ドイツ文学を専攻する大学院生の元子が、
皆に恐れられる64歳の教授に恋をする物語。
全7巻で完結済。

☆☆☆

地味な内面と外見から、ドイツ語で黒を意味する“シュバルツ”さんと呼ばれる大学院生・元子(23歳)。憧れのドイツ文学教授・榊(64歳)に告白するも、勘違いと断言され…。これは“嗜好”か“恋”か。「恋の定義」を模索する、年の差 恋愛未満ストーリー。

Amazon内容紹介より

☆☆☆

表紙が如何にも古き良き少女漫画っぽく、
部屋に飾っておきたくなる美しさ。
しかも登場人物隊が成人ということもあり
しっとりと落ち着いた佇まい。

大人しそうな外見の主人公が
その辛そうな恋愛をどう乗り越えていくのだろうと興味が沸き
1巻と2巻がKindle無料だったのを機会に読んでみた。

2巻を読み終わった時点で
続きを読まない選択肢はなかった。

主な登場人物は5人。

  • 朝比奈元子 主人公。自分は可愛くないと思っている。成績優秀で真面目。実は可愛くてメルヘンな世界が大好き。
  • 榊郁夫 元子が憧れる教授。興味を持ったら徹底的にのめり込む性格。優しく誠実な故に厳しい。
  • 田中蓮 元子や榊教授と同じ研究室の助手で34歳。不器用で情熱的で教授も元子も大好き。
  • 富岡樹里 元子の同級生の院生で、可愛く明るく友人も多く元子の憧れ。努力家。
  • 朝霧翠 榊の元妻。作家でドイツ舞踊研究家。明るくパワフルで美しい59歳。今でも郁夫が好き。

元子はこんなことを言う女性だ。

…私は人に囲まれるより本に囲まれる方が好きです
言葉に宿った魂達が
私が求める以外は口を閉ざし
私に期待せず押しつけず
ただまってくれる

2巻

そして、榊教授はこんな考え方をする。

まっさらな美しい心だけ持つなど
理想だけ詰め込んだロボットと一緒だ
嫉妬心を常に抱えながら生きていくのが人間ではないのかね
そして嫉妬心があるからこそ人間は向上していく
嫉妬心を向上心に変えられないのは醜いことだが
向上心に変えられる人間は美しいと思う

2巻

樹里はこれを実践できる女性。

自信がないなら
努力すればいいだけでしょ

5巻

明るく軽そうな言動が多い田中だが、こんな言葉を語る。

とり返しのつかないことってさ
たいがい小さなキッカケが引き金になるんだよね
だましだまし動かしてた歯車がとうとう動かなくなった時
もう元に戻せない
あとのまつり―――

5巻

誰が見てもパワフルで明るい翠も、努力し傷ついている。

“種の保存”を考えるだけの生物だったらどんなに楽だったか知れないわね

4巻
Kindle版

5人各々の世界が
長所も短所も細やかに描かれる物語運び。
想いとは裏腹に小さな切っ掛けで擦れ違ったり、
ほんの一瞬の仕草や表情で世界が変わったり。
それが生きていくことであり人間関係だ。

どんな人にも幾つもの顔があり、
どれもその人自身なのだ。

「女の子っぽい」ことは自分らしくないと避けてきた元子も、
自分を肯定することを恐る恐る考え始める。

そういう人生の機微がたくさん詰め込まれている。

榊教授の凜とした雰囲気がとても美しく、
年を取っても背筋を伸ばし、
筋の通った自分をきちんと保ち、
日々の自分を律しながら生きる教授を見倣いたいと思った。

腕時計に関する榊教授の意見が
教授らしくて印象的。

“ただの時を刻む道具”
――くらいの潔いものが好きだ

7巻

読み終わった後ずっと、教授の仕事風景が頭から離れず、
思わず背筋を伸ばした生活になっている。
コミックといえば若い人が主人公が大半なので、
年配の人が持つ心の動きや悩みなど、
こんなにしっかり描いた作品も初めて読んだ気がする。

田中さんには幸せになって欲しいな…。

コミック版