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　夕映えの街はそれだけで美しい。
　どの街にも夕暮れ時が似合う場所があるだろう。

　熊本城と市電が同時に見えるこの場所は，熊本市がNHKの全国中継に出てくる時に必ずといってもよいほど使われる”熊本市らしい”風景だ。

　熊本城も市電の電停も横断歩道の西にあるため，夕焼け色に染まった空の下で逆光になる。逆光だから電車の行き先表示やヘッドライト，信号の光が映える。繁華街の中心部なので慌ただしい夕刻時の雰囲気も感じられる。

　電停の南に続く下通商店街を歩いて行く。
　飲食店が多い路地では灯が温かな光を放ち，お腹を空かせた仕事帰りの人を誘っているようだ。

　帰宅の人が行き交うせいか，夕暮れ時の街は郷愁を誘うと思う。

　熊本市中央区細工町。
　このあたりは熊本城とJR熊本駅の間に位置するが，いわゆる繁華街ではなく人通りもまばらだ。寺社仏閣が多い地域で，それは熊本城の築城時代に遡る「一町一寺（いっちょういちじ）」による町割りに端を発する。区画の中央に寺，周辺に町屋を配置するという防衛体制で，有事の際の兵営を考えた街づくりだったのだそうだ。

　今は所々に寺院や古い商店が点在する静かな街だが，昔は城下町として栄えた場所だったのだ。近くには肥後国総鎮護で日本第二の祇園社である北岡神社があり，毎年8月に行われる北岡神社の祇園祭では，ここ細工通りを神輿神幸行列が通ってゆく。

　そんな細工通り沿いにある松田青果。
　他に類を見ないバナナ専門店だ。創業は大正15年（昭和元年）。

　独自の熟成加工バナナは大変甘くて美味しく，遠方から買いに来る方もあるほどらしい。「バナナ専門店って珍しいよねー」と思いつつ何度も前を通り過ぎておきながら，一度も買ったことがなかったのが悔やまれる。