昼下がりの駅

 そぼろ雨降る土曜日の昼下がり。
 少し小降りになってくれないかと,しばらく駅で雨宿り。

 そもそも降りた人も少なくて,あっというまに駅から人気がなくなった。
 閑散とした構内だが,長い年月をかけて多くの人が行き来した駅独特の気配がある。天井や床,改札に入った年季に,かつて通り過ぎた多くの人が残した微かな痕跡のようなものが積もっている気がしてシャッターを切った。

 こういう,人が残した気配がヴェールのように堆積し醸し出す空気って何なのだろう。廃墟などに感じる切なさや愛おしさもこれに通じていると思う。年月が残した記憶の欠片が宿っているようだ。

 この駅の前には所謂「マンモス団地」がある。
 数多の人たちの人生が昔も今もこの駅に繋がっているのだ。

新高島平駅(2022-08-20)
新高島平駅(2022-08-20)
新高島平駅(2022-08-20)
新高島平駅(2022-08-20)

月の子 MOON CHILD

本の概要

  • 全8巻(完結)
  • 著 者:清水玲子
  • 出 版:白泉社(白泉社文庫)
  • 発売日:1998/6/12(1巻)~1999/3/12(8巻)
  • 連載:『ララ』昭和63年(1988)年10月〜平成4年(1992)12月号

 アンデルセン童話『人魚姫』(1837)と,1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所の事故をはじめ1985年後半〜1986年初頭にかけて起こる様々な災害を2本の柱として織りなされる長編の恋愛少女漫画。
 登場するのは人魚と人間。人魚たちにはアンデルセンの童話のように事情がある。

 人魚の寿命は200〜800年。人魚は大宇宙を泳ぎ回る生き物だ。
 たまたま地球が産卵地として適していたので人魚たちは地球を選んだ。そして産卵の期間だけ人間に擬態する。稚魚は10年おきにくる産卵期に地球へ帰り,それから半年ほどの間に相手を決めて卵を生み死んでゆく。

 一途すぎるほど一途な登場人物達は,ちょっと重く感じるかもしれない。人魚であることを考えるとハッピーエンドな未来は見えないけれど,幸福を願って読み進みたくなる。

 文庫が出た頃に一度読んだのだが,チェルノブイリやキエフなどが登場することもあり,読み返したくなったが,ひとときその時代に帰って楽しめた。

 絵柄は今となっては古い雰囲気に見えるかもしれないが,とても芸術的で美しいと思う。所々に挟まれる塗り絵の一枚絵も楽しい。


 昭和63年ララ10月〜12月号,平成1年ララ1〜4月号掲載分。
 月を見てベンジャミンは?


 ショナの肩越しに月を見たベンジャミン。にがよもぎの星が来年(1986年)の春に落ちる夢。セツ助けたさに自暴自棄になるティルト?


 気持ちを自覚するショナ。ショナとセツの出会い。セツのために道を踏み外すティルト。「ぼくは女の子なんだって」とジミー。人間の青年ギルの運命は? 新たなキャラクターが出てきて不穏な展開になっていく巻。


 ベンジャミンとアート,セツとショナ,ベンジャミンとショナ。関係が少しずつ変わっていく。ティルトは計画を進めていく。ホリーの弟とギル。1985年11月13日 コロンビアのネバドデルルイス火山泥流災害。女の人の時間が増えるジミー。


 ティルトはどうしてベンジャミンを嫌いになったのか。どうしてセツを嫌いにならなかったのか。思い出すベンジャミン。アートのオレンジを潰したマスコミの人たちとベンジャミン。ベンジャミンが意識的に物をこわした最初の瞬間…。


 ジミーは綺麗な女の人のベンジャミンが自分であることをアートに伝え,女の人の姿でアートと一緒にソビエトへ渡る。セツも追いかける。1986年1月28日チャレンジャー号の爆発事故。ギル(ティルト)にとってのリタの価値。


 ティルトの計画に気がついたベンジャミン。セツをニューヨークに帰そうとするティルト,ベンジャミンをニューヨークに帰そうとするアート。キエフに向かうショナ。ギルに注釈するリタ。
 恋愛ってこの世で最悪な感情では?と思わされる巻。


 1986年4月2日から始まる巻。チェルノブイリの事故は1986年4月26日午前1時23分。その時刻に向かってベンジャミンもギルもアートもセツも動く。
 そして,何百年も昔にかなえられる筈だった人魚の夢は。
 平成4年 ララ9〜12月号掲載。


登場人物

人魚

ジミー(ベンジャミン) 主人公の少年または美少女。ジミーは本当は猫の名前。ティルトとセツとは三つ児で一緒に月から泳いできた。
ティルト ベンジャミンの兄弟。口が悪い。最初に孵化した。3人の中では体も大きく丈夫でリーダー格。もともと卵細胞を持っていない。
セツ ベンジャミンの兄弟。身体が弱く内気で優しい。
ショナ 14世紀生まれ。400光年離れたアスガルド星から帰ってきたマーメイド。ジミーたちの母親セイラの許嫁だったポントワの息子。昔からセイラの夢を見ていた。
ノエラ ショナをマーメイドだと気づきコミュニティに連れて行く。ショナが好き。
セイラ アンデルセンの『人魚姫』のモデル。人間に恋をし仲間の人魚たちを魔女狩りに売った。「足の先まで流れるハチミツ色の髪に砂糖菓子のような愛くるしい顔」だった。
グラン・マ 卵を生まない代わりに長生き。
アイーダ グラン・マの手伝いをしている。
シリル 人魚の女性。
ジュリ 人魚の女性。
サラ セイラの姉妹。ベンジャミンたちを守り育てた。
ミラルダ セイラの姉妹。ベンジャミンたちを守り育てた。

人間

アート ジミーを助けた保護者。ダンサーで父親はソ連人。
ホリー アートの元恋人でダンサー。
ギル・オウエン テレンス・オウエン財団の会長アルバート・オウエンの一人息子。1964年生まれ。突然月にいる夢を見るようになる。イエール大学の首席。再生不良性貧血症を患っている。
パメラ ギルの妹。
ミス・クロディ(リタ) パメラの家庭教師で6カ国語を操る。霊能力もある。身長190cm。ヤンという婚約者がいたが解消してギルに仕える。
アルテム・ザイコフ ソ連の有望な若いダンサー。17歳。お姉さんに見えるお兄さん。リムスキーの息子。
アレクセイ アルテムの三つ子の甥。将来アメリカへ行くのが夢。
コンスタンチン アルテムの三つ子の甥。
ウラジーミル アルテムの三つ子の甥。
アンナ アレクセイたち三つ子の母親でアルテムの異父姉。