『最後にして最初のアイドル 』 (ハヤカワ文庫JA)
草野原々(くさのげんげん)
早川書房 / 2018年1月25日発売
・第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞
・第48回星雲賞(日本短編部門)
・第27回暗黒星雲賞(ゲスト部門)
・第16回センス・オブ・ジェンダー賞(未来にはばたけアイドル賞)
デビュー作で星雲賞受賞は
『神狩り』(山田正紀)以来で42年ぶりらしい。
星雲賞とは
前年の優秀なSF作品に贈られる賞のこと。
1970年以降、毎年日本SF大会の投票で選ばれている。
第1回星雲賞は、筒井康隆『霊長類南へ』。
以降の受賞作品を見ても
誰もが知っている作品が目白押しという名高い賞だ。
例えば小松左京『日本沈没』
田中芳樹『銀河英雄伝説』
カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』
ダン・シモンズ『ハイペリオン』などなど。
「アイドル」なんて単語に騙されてはいけない。
本書はこれら名作と並ぶSFだと評価されているのだ。
「BOOK」データベースの説明では下記のように書かれている。
“バイバイ、地球―ここでアイドル活動できて楽しかったよ。”SFコンテスト史上初の特別賞&42年ぶりにデビュー作で星雲賞を受賞したの表題作をはじめ、ガチャが得意なフレンズたちが宇宙創世の真理へ驀進する「エヴォリューションがーるず」、書き下ろしの声優スペースオペラ「暗黒声優」の3篇を収録する、驚天動地の草野原々1st作品集!
「BOOK」データベース
確かにこの通りだが、
これを読んでもサッパリ分からないだろう。
表題作はもちろん、
収録されている3作品全てが
「読んで衝撃を受けるしか無い!」作品だと思う。
そう、正真正銘「衝撃のSF」なのだ。
ただ、非常に読者を選ぶ作品でもある。
馴染めない人は
徹底的に好きになれない可能性がある。
百合ありグロあり。
物語スケールはどんでもなく大きく
スコシフシギではなくハードSF。
語りはトントン拍子で、
壮大に広げた風呂敷は最後にキッチリ畳まれる。
爽快だ。
SFとして、物語として、発想として、
見事な手腕にあっけにとられる。
グロ場面に耐性がない方、
オタク文化に馴染めない方、
そんなにはお勧めできないと思う。
最後にして最初のアイドル
『最後にして最初のアイドル』(2016年)
「最初にして最後」ではなく「最後にして最初」。
ここが重要。
アイドルなんて単語に騙されてはいけない。
萌え要素などを期待してはいけない。
『ラブライブ!』の二次創作だからって、
矢澤にこ&西木野真姫の百合物語だなんて思ってはいけない。
ガチSF(褒め言葉)で科学要素でバッチリ固められ、
さらに滅多にないほどグロい!
著者自身の言葉によると、
「オラフ・ステープルドンの『最後にして最初の人類』『スターメイカー』をモチーフにして、宇宙と意識とアイドルの謎を解き明かす作品」
「実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF」
ということだ。
私はオラフ・ステープルドンを読んだことがなく、
この言葉を理解できないが,
実に「宇宙と意識とアイドルの謎を解き明かす」作品だったと思うし
全くもって想像を絶する方法でそれは解き明かされた。
エヴォリューションがーるず
『エヴォリューションがーるず』(2017年)
テーマは、ガチャ回してなんぼのソシャゲ。
古代生物が「がーるず」という女の子になるゲームだ。
人気アニメ『けものフレンズ』を彷彿とさせる世界観!
……と思いきや、異世界転生モノで、
やっぱりいきなり非常にグロい!
そして百合?!
ソシャゲがテーマは最後まで変わらないのだが、
元が古代生物テーマのソシャゲなだけに
生物学的な側面が色々描かれるのは勿論、
最後は宇宙的哲学にまでたどりつく。
SFでありファンタジーでありスペースオペラ。
ソシャゲ──それは魂の自由意志エネルギーを搾取するために進化が進化して作り出した器官である。承認を 餌にして魂を呼び寄せて自由意志エネルギーを捕食するのだ。
エヴォリューションがーるず
ああとにかく読んで!
そして凄さを分かって!
それくらい想像済みで読み始めたのだが、
やはり凡人の想像など軽くかわしてくれた。
暗黒声優
『暗黒声優』(書き下ろし)
もちろん「声優」という単語に惑わされてはいけない。
昨今よくある声優モノのはずがない。
声優がもはや人間とは別枠生物になっている!?
兎にも角にも物理法則が全く異なる世界の物語だ。
だが「熱川 バナナワニ園」が存在する。
いやバナナワニ園はともかく、
声優が声を出せば死がもたらされる世界なのだ。
最後にはこの世界の物理法則が、
宇宙創成時代の出来事から順を追って解き明かされる。
当然ながら本作品でも
オタク世界のパロディは各所に健在だ。
「もしかして、その骨──スズカさんのカップリング相手、エリエリこと 不知火 エリナさんのものですか!」 サチーはさっきからマタタビにやられた猫のようだ。 「そうだよ。エリナはそのあだ名好きじゃなかったけどね」
暗黒声優
これは『艦これ』の艦娘
「ぬいぬい」が気に入らない不知火のことでは?
オタク文化が大好きでハードSFが大好きで
グロや百合もいとわない!
そんな人に超絶お勧めな1冊だ。