本の記録(2023-08)

 8月前半は『源氏物語』の余韻を味わうため及び理解を深めるために『あさきゆめみし』の宇治十帖を再読。
 その後,さっさと読み終われる積ん読を消化し,以前から読もうと思いつつ読めずにいた『順列都市』に取りかかった。『順列都市』は単独でブログ記事にまとめようと思っていたが,難解過ぎて書けずにいるうちに数日経過してしまった。


 ブログ記事を書ける気がしないので『順列都市』について,非常にどうでも良い感想を一言書いておく。
 ヒロインのマリアにマジがっかりだった! 学問的な頭脳は優秀でも,感情的で攻撃的で人間性に安心感がない昔ながらのステレオタイプな女性。そういう残念な意味で,彼女は『三体』の後半のヒロイン程心にそっくりに思えた。程心も全くもってうんざりするステレオタイプな女性で,彼女がヒロインであるのが苦痛でたまらないけれど(ヒロインだからずっと出てくるし)物語の先は気になるから一応『三体』読むよ…って感じだったのだ。『三体』もヒロイン以外にも魅力的な女性は皆無だったが,『順列都市』も同じ。マリア以外に出てきた女性,ケイトやアンナもひどかった。

 感情お馬鹿ではない魅力的な女性がヒロインであるハードSFって何があるだろう? ぱっと思い付いたのは『最後にして最初のアイドル』かな。


8月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:1610
ナイス数:36

あさきゆめみし(6) (講談社漫画文庫)あさきゆめみし(6) (講談社漫画文庫)感想
 『与謝野晶子の源氏物語』を読んだ後に宇治十帖を読むと,「匂宮が素敵すぎ!奴はもっと鬼畜である!」と思ってしまう。大和和紀さんがめちゃ原作を読み込んでいて,少女漫画にふさわしい解釈を施して凄いってことだと思う。
読了日:08月06日 著者:大和 和紀

あさきゆめみし(7) (講談社漫画文庫)あさきゆめみし(7) (講談社漫画文庫)感想
 『与謝野晶子の源氏物語』読後の再読。
 どちらにしても場に流されて泣いてばかりいておおよそ魅力的とは思えぬ浮舟だが,大和和紀さん解釈で少しそれが和らがぬでもない。後書きで大和和紀さんが「甘めの源氏物語」と書かれているが,そのおかげで読後の腑に落ちない感は緩和されている。やはり文字だけでは分からない服装や風景が見られるのは素晴らしいし,これを描くためにどれほどの調査検証が必要だったかと思い頭が下がる。
読了日:08月08日 著者:大和 和紀

バーナード嬢曰く。【友情篇】 (REXコミックス)バーナード嬢曰く。【友情篇】 (REXコミックス)感想
 既刊からの選り抜き傑作選ということで,全て既読の話。だが何度読んでも面白いし,彼女らの会話を読んでいるとその本もあの本も再び読みたくなるのであった。『渚にて』とか今まさに読んでみると思うこと多そうだ。
読了日:08月09日 著者:施川 ユウキ

第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)感想
 日本の大手マスコミのニュース番組などが報道するウクライナとロシアのことは,非常に一方的で偏っていることは常々感じていたし,例えばウクライナのネオナチのことなどはほぼ解説されていないと思っていた。日本が西欧諸国と一緒にウクライナ側に立っているので仕方がない部分はあるが,表面的すぎて大手メディアの報道を聞いていても情報が少なすぎる。
 本書の著者はフランス人なので,やはりアメリカとウクライナが流した情報しか手にすることができない立場ではある。が,ヨーロッパの中から,またNATO加盟国の国民という立場から,そして人類学者であり歴史家である立場から解説されている。知らない視点が多々提示されており興味深かった。
読了日:08月13日 著者:エマニュエル・トッド

世界の神話 (岩波ジュニア新書)世界の神話 (岩波ジュニア新書)感想
 超あらすじで世界中の神話に触れることができる本。インド・メソポタミア・エジプト・ギリシア・ケルト・北欧・インドネシア・中国・オセアニア・中南米・北米・日本。
 当然多くの聞いたことがない神々の名前が次々と出てきてとても覚えられないし把握もできないが,世界中に似たような神話があることはよくわかった。世界の神話のごく源流になりそうな『ギルガメシュ叙事詩』は一読の価値がありそうである。
読了日:08月15日 著者:沖田 瑞穂

順列都市〔上〕順列都市〔上〕感想
 登場人物がコロコロ変わるし,時系列で進まないし,生化学の知識が要求される分子レベルの話が延々と続いたり,ミランコビッチや氷期・間氷期など地球科学の知識がサラリと取り入れられていたりして,難解だと思う。理系の素養がない人ほど詳細な理解が難しいのではないか。しかしその辺はそこそこに読み飛ばして行けば,それらのベースの上に後半は徐々に物語が現れて面白くなっていく感じ。評判の良いSFなので,下巻の展開に期待したい。
読了日:08月22日 著者:グレッグ イーガン

順列都市〔下〕順列都市〔下〕感想
 ダラムとマリアが作った世界が動き出し,7000年の時が経過。物語は順列都市を舞台にし,時を経て変化していったオートバースが問題になってくる。物語はやはり分かりにくかった。最終的に心に残ったのは,ありがちな倫理観とかそういった問題ではなく,永遠を生きるという哲学的な問題提起だった気がする。
読了日:08月28日 著者:グレッグ イーガン


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第三次世界大戦はもう始まっている

  • 発売日 ‏ : ‎ 2022/6/17
  • 出版社 ‏ : ‎ 文藝春秋 (2022/6/17)
  • 新書 ‏ : ‎ 208ページ

本来、簡単に避けられたウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなく米国とNATOにある。事実上、米露の軍事衝突が始まり「世界大戦化」してしまった以上、戦争は容易に終わらず、露経済よりも西側経済の脆さが露呈してくるだろう。

本の扉の紹介文より

 日本の大手マスコミのニュース番組などが報道するウクライナとロシアのことは,非常に一方的で偏っていることは常々感じていた。
 例えばウクライナのネオナチのことなどはほぼ解説されない。ロシア側にどのような事情があり戦争に至ったのかについてもきちんとした解説は聞いたことがない。ロシアに少しでも同情的だったり,ロシア側の理屈に理解を示すようなことをしようものなら聞く耳も持たぬ人たちに袋だたきにされそうな雰囲気だ。
 ウクライナの街が如何に理不尽に破壊され,ロシアが如何に横暴であるかが強調され,ウクライナへの同情を煽り,歴史的社会的考察は悉くお座なりにして感情に訴える。


 さらにアメリカは「NATOは東方に拡大しない」と言っていたのに、実際は、可能なかぎり戦略的な優位を保って、結局、ロシアを軍事的にも囲い込んでしまいました。誰もがロシアを責めますが、アメリカと同盟国の軍事基地のネットワークを見れば一目瞭然であるように、囲い込まれているのは西側ではなく、ロシアの方です。軍事的緊張を高めてきたのは、ロシアではなくNATOの方だったのです。

P.30

 現実的に困っているウクライナの人々に某かの援助をするのが悪いと言うつもりはないが,そもそも遠い地域の紛争で,ウクライナもNATOも,ウクライナの隣国やその他のヨーロッパの国々の関係なども全く分かっていない日本人が,同情だけで動くのは浅はかな行為であると思う。しかも日本人が受け取れる情報など又聞きでしかないし,ウクライナだってロシアと同じく自分に有利な情報を有利な状態でしか流さない。

 本書の著者はフランス人。やはり我々日本人と同じくアメリカとウクライナが流した情報しか手にすることができない立場ではある。
 しかし,ヨーロッパの中で,NATO加盟国の国民という立場からの視点を持っている。その立場に立った人類学者であり歴史家である著者の解説は興味深かった。

 ウクライナ戦争はキューバ危機や第一次世界大戦に似ているとのことだ。


 軍事的な意味での”真のNATO”とは、アメリカ、イギリス、ポーランド、ウクライナ、そしておそらっくスウェーデンから成り立っています。そこに、ドイツとフランスは入っていないのです。それほど強力でないドイツ軍は、ウクライナ危機をめぐる軍事同盟のメンバーとしては、事実上、見放されています。フランスは一定の軍事力を保持していますが、事態を把握できていません。

P.148

 日本に対しての提言も興味深かった。地域の安定化のためには日本も核保有国になるべきであると著者は述べる。
 日本の場合,核に関しては国際世論以前に国内で議論をすることすら許されない状態であるから核保有は今現在絶望的に難しいと思うが,議論そのものが封じ込められている現在の状況は冷静とは言い難い。思考停止だと思う。


「核の傘」も幻想です。使用すれば自国も核攻撃を受けるリスクのある核兵器は、原理的に他国のためには使えないからです。中国や北朝鮮にアメリカ本土を核攻撃できる能力があれば、アメリカが自国の核を使って日本を守ることは絶対にあり得ません。自国で核を所有するのか、しないのか、それ以外に選択肢はないのです。 

P.87

 この本に書かれている通り「核の傘」が幻想であることは明らかだし,日本が自分で自分の国を守れないであろうこと,故にある種の国々から自立した国家として扱われていないことも確かだ。今はよくても未来永劫それで良いと確信していて良いのであろうか。

 家族形態と国家体制の相関関係は考えたこともなかった。

 あっという間に読める本だが,新たな視点を様々与えてくれる本であった。

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