雨の中を散歩したかったわけではなかった。
雨の日だったが,ただ歩き,知らない風景を見たかった。
たまたま思い付いて,都営三田線の終点付近に広がる団地の中を歩き回ってみることにしたのだった。
かつて団地に住んでいたことがある。1980年代〜1990年代の頃だった。
私の人生は若い頃からずっと引越を繰り返す巡り合わせで,2回ほど公団の団地に住む機会があった。その頃の記憶に焼き付いた風景と,今目の前にある見知らぬ団地が頭の中で重なっていく。どこの団地にも共通する風情は,年月を重ね繰り返された成熟した人の営みによって醸し出されている。
自転車置き場も案内板も,建物の間に点在する緑の公園や大木に育った街路樹も,何故か懐かしくて優しい風景に見えるのだ。
昨秋に公開された劇場アニメ『雨を告げる漂流団地』を,先日Netflixで視聴した。
その物語の中にあったのも団地に宿る優しく懐かしい風景で,団地というものにそれを感じ共感する人って多いのだなと思わされた。
玄関口に置かれた宅配便の台車までもが愛おしく見える。
団地という空間はとても不思議だ。