紅葉のライトアップや枝垂れ桜で脚光を浴びる六義園だが,それ以外の季節は静かにのんびりと散歩ができる静かな庭園だ。実のところ紅葉する木はそんなに多くないし,桜も有名な枝垂れ桜があるだけで,桜の木が沢山あるわけでもない。
六義園は,第5代将軍徳川綱吉の大老だった柳沢吉保(やなぎさわよしやす,1659-1714)が造園した和歌の庭園だ。今は無くなってしまったが,以前は紀貫之が書いた『古今和歌集』の仮名序に由来を持つ「心種(しんしゅ)の松」という名所もあった。
大和歌は、人の心を種として、万の言の葉とぞなれにける
古今和歌集 紀貫之
若葉が力を溜めて弾き出ようと時を伺う早春の六義園はクマザサが美しい。
訪れる人が少ないこの季節には様々なメンテナンスが行われるようで,この日は水路への水が遮断されていた。ベンチなども取り除かれ,入れる場所もいつもと異なっていた。
度々訪れると,そんな小さな違いも楽しく思える。
日本庭園だから梅があるかと思いきや,六義園には意外と梅の木も少ない。
正門近くの宜春亭(ぎしゅんてい)の横に紅梅が咲き誇っているが,ここは予約が必要な有料茶室で一般の入場者は近くへ行くことができない。
正門から大泉水(六義園の中央にある大きな池)の横を北へ歩き,渡月橋を渡ったところに数本の梅の木がある。ここが六義園で唯一,梅の花を楽しめる場所だろうか。2月の中旬,丁度白梅が見頃だった。
園内で一番高い展望所,藤代峠に向かうツツジの階段を上ってゆくと,気の早いツツジの花が数輪,既に咲き始めていた。春は近い。
枝垂れ桜と休憩所兼売店の間にある土蔵。
遠くから緑に囲まれた様子を眺めることしかできない蔵だが,この日は扉の近くまで見学できるようになっていた。
緑が生い茂り,この土蔵が「森の中の一軒家」のような風情になる季節がもうすぐやってくる。楽しみだ。