本の記録(2024-03)

 3月は,主に昨年のブルーバックス60周年で購入したブルーバックスのkindle本を読む月になった。まだ読めていない本がたまっているが,ひとまずこれにてブルーバックスから離れる。
 主に日常生活に関係が深い内容の本を読んだので,お茶やコーヒー,ウォーキングなどの知識は早速活用している。


3月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1562
ナイス数:35

認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)感想
 「何を見たかは覚えているが,どこで見たかは意外に覚えていない」「日常的に知っていることは豊富な事例から適切なプロトタイプを作るが,そうでないものは目立つ代表例を用いて予測や判断を行ってしまう」「自分の行動の原因はその時の状況に求めるのに,他人の行動の原因はその人の性格や意志などに求めることが多い」「同じタイプのことが100回起きることと一つの事例を100回聞くことを区別していない」「接触回数が増えればそれを好きになってしまう」等々,日常生活に身に覚えがあることが実験例を用いて解説されており興味深かった。
読了日:03月07日 著者:鈴木宏昭

人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス)人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス)感想
 水月湖には厚さ45m(7万年分)の年縞がたまっており,水月湖は地質時代の標準時計になった。著者はこれを元に1年単位の詳細な過去の気象データを復元する研究に取り組んでいる。数十万年のスケールで見れば地球では氷期が「正常」な状態で,現代のような変動の少ない温暖な時代は例外的な時代。過去の大規模な温暖化では東京がマニラに変わるほどの激しい温暖化が起き,海位が350年で20m上昇した。知見が得られていない理由で気候が突然変動し始めることだって起こる可能性があるのだ。ダイナミックな地球が分かりやすく解説されていた。
読了日:03月12日 著者:中川毅

悲しみよ こんにちは (新潮文庫)悲しみよ こんにちは (新潮文庫)感想
 高校生の頃に朝吹登水子訳で読んだ。当時は恋愛と自分勝手な欲望に浮ついて過ごす父と娘の自堕落でバカっぽい物語にしか思えなかった。「○○さんが○○をした」以外の部分に含まれる膨大な情報を全く読み取れていなかったのだ。これほどの人間描写を18歳で書くとはサガンは天才だ。相反する感情を同時に抱き引き裂かれるセシルの若さ。規律正しく生きてきて,今,愛する人達と理想の家庭を築こうとしている40代女性のアンヌ。アンヌの悲劇もセシルにとっては夏とともに浮かび上がる心地よい悲しみでしかなく,それがとてもリアルだと思った。
読了日:03月13日 著者:フランソワーズ サガン

お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ (ブルーバックス)お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ (ブルーバックス)感想
 本書の著者は,原木を訪ねてアジアの奥地を旅し,時に日本茶人気への逆風も吹き荒れる中,お茶の研究を50年間続けてこられたそうだ。本書は茶の木のルーツに始まり人類史におけるお茶の歴史,産地,お茶の種類と特徴,成分と栄養,成分の特性を踏まえた美味しい淹れ方,茶飲料の加工の歴史など幅広く,しかも一般読者向けに科学的に詳しく解説されている。早速生活の中で試してみようと思うお茶の飲み方なども紹介されており,お茶の教養が深まったと思う。
読了日:03月19日 著者:大森正司
コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)感想
 医師であり珈琲オタクである著者が,現時点での知識の集大成を科学と熱意で語り尽くすという感じの本。正直言って興味を持てない分野も詳しく語られていて少々ついていけない部分もあったが,逆に珈琲のどの方面に興味がある人にも欲しい情報を見つけられる内容ではないかと思う。
 珈琲の抽出や健康への影響など日々の珈琲生活に直結する知識も興味深かったが,珈琲を淹れるための器具や歴史も面白かった。日頃からよくわからないなぁと思っていたマキネッタとモカポットの呼び方についても腑に落ちる解説があって納得できた。
読了日:03月24日 著者:旦部幸博

ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方 (ブルーバックス)ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方 (ブルーバックス)感想
 「ややきつい」と感じる早歩きとゆっくり歩きを繰り返す「インターバル速歩」を続けることで,加齢によって低下していたミトコンドリア機能が改善し,最高酸素消費量が増加する。結果,生活習慣病や睡眠,うつ症状,認知機能など多くの問題が解決されて医療費の削減にも繋がる。これらの研究と得られた結果について,データを示しながら分かりやすく解説されており,自分もインターバル速歩を始めて身体機能を改善したいという気持ちになった。
読了日:03月27日 著者:能勢博


読書メーター

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悲しみよこんにちは

本の概要

  • 出版社:新潮社
  • 発売日:2008/12/20
  • 著者:フランソワーズ・サガン 訳:河野万里子
  • 文庫:197ページ
  • ISBN-10:4102118284
  • ISBN-13:978-4102118283
  • Amazonのページへ

セシルと同世代だった頃

 高校生の頃に一度読んだことがあった。
 当時の書店や図書館に並んでいたのは,朝吹登水子訳の1955年版。一度は読んでおくべき作品のように思われていた本だったので手に取ったが,高校生の私はこの作品の良さを少しも理解できなかった。

 恋愛と自分勝手な欲望に浮ついて過ごす父と娘。何と自堕落でバカっぽくて下らない!
 南仏の海岸で過ごすバカンスも,登場人物たちの世界も,死という現実も,全くもって当時の自分の想像の範疇を超えており,共感することはできなかったのだった。

 思えば,「○○さんが○○をした」以外の部分に含まれる膨大な情報を,その頃の私は全く読み取れていなかったのだと思う。


ある日ラジオでの再会

 この作品を思い出すこともない人生を過ごし40年ほどが経過したある日,たまたまラジオ番組「朗読の世界」で『悲しみよこんにちは』を聞いた。
 それは,第二部,レイモンとアンヌとセシルが,レイモンの友人に会う他面いサン・ラファエルの「ソレイユ」というバーへ行く場面の朗読だった。
 たった1回分聞いただけ。たったそれだけの短い場面だったのに,南仏の別荘地の生活が目に浮かぶようで,各々の背景を持った登場人物たちの表情が見えるようで,感動した。

 これほどの人間描写を18歳で書くなんてサガンは天才ではないか!?
 昔一度読んだけれど,心の機微を生活の機微を風景を,こんなにえぐるように美しく書かれた作品だったっけ?

 どうしてもこの作品をもう一度読んでみたくなって,すぐさま買って読み始めたのだった。

 昔読んだ朝吹登水子訳の新潮文庫は既に絶版になっているようで,あの懐かしい表紙の本はAmazonの中古にもなく,購入したのは現在の発売されている新潮文庫の河野万里子訳(2008年)。「朗読の世界」で読まれていたのもこれだった。


アンヌより年上になって

 セシルとレイモンが刹那的に楽しく生きる人達で,この人たちの生き方は理解できないと思う気持ちは昔読んだ時と同じだが,しかしそれはそれとして,そんな彼らの感情描写には読み継がれてきた作品が持つ迫力があった。

 相反する感情を同時に抱いて引き裂かれるセシル。そこには自分自身も,きっと他の人達も持っていたであろう若さが持つエネルギーが感じられた。

 規律正しく自分を保って生きてきたアンヌ。40代の成功した女性になって愛,今,愛する人達と理想の家庭を築こうとしている彼女の強さと弱さ。

 訳者あとがきで河野万里子氏が書いておられる下記の一言は,何と的確な表現だろうか。


エルザとアンヌの心理描写など、ところどころ、もしも原文を切ったらまっ赤な血が噴き出すのではないかという気さえする。

『悲しみよこんにちは』(新潮文庫)p.181

 最後のセシルの「悲しみよこんにちは」が,とてもリアルに思えた。
 夏とともに胸にこみ上げるアンヌの思い出は,セシルにとって既に遠く,心地よくすら感じられる痛みになっているように見え,その残酷さにリアリティを感じたのだった。


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