インカの冬至祭

 11月初め,マチュピチュ観光のためにインカの首都クスコを訪れていた。
 ペルーを訪れたそもそもの目的は日食観測だったので,日食後の余興のような気持ちの観光だった。
 しかしクスコは標高3400m。私は平気だったが,一行の中には旅疲れも重なって高山病のような症状で気分を悪くする人があり,また雨季だったらしく天気も良くない。

 この日も朝から霧雨が降ったり止んだり。
 タンボマチャイ(聖なる泉)というインカの沐浴場や,プカ・プカラ(赤い要塞)の遺跡の見学に向かったが,雨に阻まれ近寄れず,遠くから見ただけで終わってしまった。
 ここ,サクサイワマンに着いた時も,空はどんより暗かった。

 インカ帝国の都クスコの東,街を見下ろすように広がるサクサイワマンは,巨大な石がジグザグを繰り返しながら積み上がる,要塞のような遺跡だ。
 1536年5月,スペインによって破壊されて今に至り,用途はよくわかっていないらしい。

Saksaq Waman (1994-11-04)
サクサイワマンからクスコを臨む (Saksaq Waman, 1994-11-04)

 遺跡の中を歩き回っていると,ガイドさんが,毎年6月24日にここで行われる太陽の祭の話をしてくれた。

 インカの神様もスペインと共にやってきたカトリックに追い出されてしまったが,今でも 6月24日の太陽の祭(インティ・ライミ, Inti Raimi)の日だけは,インカの儀式と共に復活する。
 太陽神の子であるインカ王の子孫が伝統的な衣装をまとってサクサイワマンに降り立ち,傍らの神官に太陽の神への生け贄として,2頭のリャマを屠るよう命じるのだ。

 その話を聞いていると,突然雲が切れ辺りが太陽の光に照らされた。何だか,太陽を見るためにペルーを訪れ太陽神の祝福を受けたような気がして嬉しかった。

 以来毎年6月24日が巡ってくると,私はサクサイワマンの陽光を思い出し,インティ・ライミが開かれているのだと思う。

座り込む人たち

 ロンドンを訪れた最初の日。
 日没が遅い5月の長い昼間を利用して,朝から晩まで死ぬほど歩き回った。

 バッキンガム宮殿は午前中の元気なうちに訪れた場所で,兎にも角にも人だらけだった。門の前も,そしてこのヴィクトリア女王記念碑の周辺も。どちらを向いても人がうじゃうじゃで,とてもじゃないが良い感じの写真なんて撮れっこない。
 もちろんこの人たちはみんな観光客だろう。
 イギリス国内からの人が多いのか外国人が多いのか全くわからないが,何故か多くの人たちが燦々と照りつける陽光の下,記念碑の周辺に座り込んで寛いでいる。

 何故みんな座り込むの?
 不思議に思ったが,その後,トラファルガー広場へ行ってもセントポール大聖堂へ行っても,似たような光景を度々見かけることになった。
 観光地のモニュメント前に座り込んでただゆったり過ごしている彼ら。観光地を訪れたら最初から最後まで忙しなく動き回って写真を撮りまくろうとする私。

 別にどちらが良いとか悪いとかないけれど,ゆったり座って過ごすってことができそうにない私は,無い物ねだりで彼らの過ごし方が少し羨ましかった。

Queen Victoria Memorial(2008-05-22)
Queen Victoria Memorial(2008-05-22)

 BBCで放映されているエリザベス2世女王のプラチナ・ジュビリーを見ながら,バッキンガム宮殿へ行った日のことを思い出したのだった。

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 過去の旅行を写真で旅する いつかの遠い街 シリーズ。
 気合い入れて撮った写真。
歩きながら適当にシャッターを切った写真。
何だか忘れてしまった写真。
色々ある中からたまたま目に留まった1枚をピックアップ!
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